健康診断の結果を見て、「HbA1c」という項目に目が留まった方も多いのではないでしょうか。血糖値と並んで書かれているものの、「何が違うのかよく分からない」と感じる方は少なくありません。
実はHbA1cは、過去1〜2か月間の血糖コントロールの状態をまとめて示す、とても重要な指標です。
この記事では、HbA1cがどのような仕組みで過去の血糖状態を表すのかを中心に、基準値やリスク、改善の考え方まで、できるだけわかりやすく解説します。
HbA1cとは?【読み方:ヘモグロビン・エイワンシー】

HbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)は、血液検査で測定される数値の一つで、糖尿病の診断や治療経過の評価に欠かせない指標です。
健康診断で血糖値と一緒に記載されていることが多く、「今この瞬間」だけでなく「これまでの状態」を知るための目安になります。
グリコヘモグロビンの一種
HbA1cの「Hb」とは、赤血球の中に含まれるヘモグロビンのことです。
肺で取り込んだ酸素を全身に運ぶ重要なタンパク質です。
一方、食事から摂った糖質は体内でブドウ糖となり、血液中を流れます。このブドウ糖がヘモグロビンと結びついた状態を「グリコヘモグロビン」と呼びます。
グリコヘモグロビンにはいくつかの種類がありますが、その中で血糖状態を安定して反映するのがHbA1cです。
過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映する指標
HbA1cが重要とされる最大の理由は、過去1〜2か月間の平均的な血糖状態を反映する点にあります。
通常の血糖値は、採血したその瞬間の数値です。食事や運動、ストレスなどの影響を強く受けるため、一度の測定だけでは日常の血糖管理の良し悪しは判断しにくいことがあります。
一方でHbA1cは、赤血球の寿命と結びついているため、日々の変動に左右されにくい、長期的な血糖状態を把握できます。
HbA1cの仕組みを3ステップで図解解説

では、なぜHbA1cを測るだけで、過去1~2ヶ月間の平均血糖値がわかるのでしょうか。体の中で起きている流れを、3つのステップで見ていきます。
ステップ1:血液中のブドウ糖が赤血球に入る
食事によって増えたブドウ糖は、血液中を流れながら全身の細胞に運ばれます。
血糖値が高い状態では、余分なブドウ糖が赤血球の中にも入り込みやすくなります。
これは特別な働きを必要とせず、濃度に応じて自然に起こる現象です。
ステップ2:ブドウ糖がヘモグロビンと結合し「糖化」する
赤血球の中に入ったブドウ糖は、ヘモグロビンとゆっくり結合します。この反応を「糖化(とうか)」と呼びます。
血糖値が高い状態が続くほど、糖化は進みやすくなります。そして重要なのは、一度結合したブドウ糖は、その赤血球が寿命を迎えるまで離れないという点です。
ステップ3:赤血球の寿命(約120日)により平均値がわかる
赤血球の寿命は約120日(およそ4か月)です。血液中には、新しい赤血球と古い赤血球が常に混ざっています。
そのためHbA1cを測定すると、過去1〜2か月間の血糖状態を特に強く反映した平均値が算出されます。
これが、HbA1cが長期的な血糖管理の指標として使われる理由です。
HbA1cと血糖値の違いとは?どちらが重要か

健康診断の結果を見ると、「血糖値」と「HbA1c」が並んで記載されていることが多くあります。どちらも血糖に関する数値ですが、意味や役割は大きく異なります。
「血糖値が正常だから大丈夫よね?」「HbA1cだけ高いのはなぜ?」といった疑問を持たれる方もいますが、血糖値とHbA1cは、どちらも重要で、役割が違う指標です。この違いを理解することが、正しい健康管理につながります。
血糖値:その瞬間の血糖状態を示す「点」の指標
血糖値は、採血した「その瞬間」の血液中のブドウ糖の濃度を示します。いわば、今この時点の状態を切り取った数値です。
そのため血糖値は、以下のような要因で大きく変動します。
- 食事の直後:
糖質が吸収され、血糖値は上がりやすい - 空腹時:
食後から時間が経ち、血糖値は下がりやすい - 運動後:
筋肉が糖を使い、血糖値が低下しやすい - ストレスや体調不良:
ホルモンの影響で上がることもある
このように血糖値は変動が大きいため、一度の測定だけでは、普段の血糖コントロールを正確に評価できないことがあります。
例えるなら、血糖値は「今日のテストの点数」のようなものです。
HbA1c:過去の血糖コントロールを示す「線」の指標
一方、HbA1cは、過去1〜2か月間の平均的な血糖状態を反映する数値です。
検査直前の食事や運動の影響をほとんど受けないため、日常生活全体の血糖コントロールを把握するのに適しています。
たとえ検査当日の血糖値が正常でも、HbA1cが高ければ、「ここ1〜2か月は血糖値が高い状態が続いていた」と判断できます。
HbA1cは、日々の血糖値の変動を平均化した「流れ(線)」を見る指標と言えるでしょう。
糖尿病の診断・治療で両方が必要な理由
糖尿病の診断や治療では、血糖値とHbA1cの両方を組み合わせて評価することが基本です。
- 診断の場面:
空腹時血糖値や75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)と、HbA1cを総合して判断します - 治療効果の評価:
治療がうまくいっているかは、主にHbA1cで確認します - 日常管理:
インスリン治療中の方などは、血糖値をこまめに測定し、低血糖や高血糖の予防に役立てます
つまり、血糖値は「今の状態」を知るため、HbA1cは「これまでの状態」を知るための目安なのです。
どちらか一方だけを見るのではなく、両方をセットで理解することが、糖尿病の早期発見や重症化予防につながります。
HbA1cの基準値と目標値【日本糖尿病学会の指標】

HbA1cの数値を見て、「これは高いのか、低いのか」「どこを目指せばいいのか」と迷う方は少なくありません。
HbA1cは、単に高い・低いだけで判断するのではなく、今の状態がどの段階にあるのか、そして今後どこを目標にするのかを理解することが大切です。
正常型・境界型・糖尿病型の基準値一覧
日本糖尿病学会では、HbA1c(NGSP値)をもとに、血糖状態を大きく3つに分類しています。
| 判定区分 | HbA1c(%) | 医師から見た状態の目安 |
|---|---|---|
| 正常型 | 5.5%以下 | 血糖コントロールは良好。この範囲を維持できていれば理想的です。 |
| 境界型(糖尿病予備群) | 5.6〜6.4% | 糖尿病ではないが要注意。生活習慣の影響が数値に表れ始めています。 |
| 糖尿病型 | 6.5%以上 | 糖尿病が強く疑われる範囲。他の検査と合わせて診断します。 |
※この基準はあくまで診断の目安の一つです。最終的な診断は血糖値の検査結果と合わせて、医師が総合的に判断します。
特に5.6%以上は「まだ大丈夫」ではなく、「今が見直しのタイミング」と考えてください。
境界型の段階で対策を始めるかどうかで、将来の糖尿病発症リスクは大きく変わります。
治療中の方におけるHbA1cの目標値
すでに糖尿病と診断され、治療を行っている場合は、「正常値に戻すこと」よりも、合併症を防ぎながら安全に血糖を管理することが目標になります。
そのため、HbA1cの目標値は一律ではなく、年齢や体の状態に応じて設定されます。
合併症予防を目的とした基本目標:7.0%未満
多くの患者さんに共通する基本的な目標が、HbA1c 7.0%未満です。
この水準を保てていれば、糖尿病性網膜症・腎症・神経障害といった細小血管合併症の発症リスクを大きく下げられることが、これまでの研究で分かっています。
まずは7%を切るところを目指しましょうとされる病院が多いです。
低血糖リスクを考慮した目標:8.0%未満
一方で、すべての方が7.0%未満を目指すべきとは限りません。
- 高齢の方
- 転倒リスクが高い方
- 重い低血糖を起こしやすい薬を使用している方
このような場合は、「下げすぎないこと」自体が治療目標になることもあります。
その際の目安として設定されるのが、HbA1c 8.0%未満です。
これは「治療が甘い」という意味ではなく、低血糖による事故や体調悪化を防ぐための、安全を優先した目標と理解してください。
目標値は「主治医と一緒に決める」もの
HbA1cの目標値は、ネットや一般論だけで決めるものではありません。
年齢、生活背景、合併症、服用中の薬などを踏まえ、主治医と相談しながら「自分に合った目標」を設定することが何より重要です。
「なぜこの目標なのか」「今はどの段階なのか」を理解したうえで治療に向き合うことが、長く安定した血糖コントロールにつながります。
HbA1cが高いとどうなる?放置する3大リスク

HbA1cが高い状態というのは、「血糖値が高い日が、長期間にわたって続いている」ことを意味します。「自覚症状がないから様子を見ている」「少し高いだけなので放置している」という方は少なくありません。
しかし、HbA1cの高値を放置することは、静かに体をむしばむリスクを抱え続けることと同じです。ここでは、特に注意すべき3つの代表的なリスクについて、順に解説します。
① 糖尿病性網膜症|気づかぬうちに視力を奪う
糖尿病性網膜症は、目の奥にある「網膜」の細い血管が傷つく合併症です。
ものを見るために重要な神経の集まり
怖い点は、初期にはほとんど自覚症状がないことです。「見えにくくなってから受診した時には、すでに進行していた」というケースも、決して珍しくありません。
- 視界がかすむ
- 視力が低下する
- 最悪の場合、失明に至る
といった深刻な結果につながります。
HbA1cが高い状態が続くほど、網膜の血管は確実にダメージを受け続けるため、自覚症状がなくても定期的な眼科検診が不可欠です。
② 糖尿病性腎症|沈黙のまま進行し、透析に至ることも
糖尿病性腎症は、腎臓の毛細血管が障害される合併症
です。
血液をろ過し、老廃物を尿として排出する臓器
この合併症も、初期にはほとんど症状が出ません。しかし、HbA1cが高い状態が続くと、腎臓のフィルター機能が少しずつ壊れていきます。
- 尿にタンパクが漏れ出る
- 体がむくむ
- 腎機能が徐々に低下する
といった変化が現れ、最終的には人工透析が必要になることもあります。
「症状が出た時には、すでに後戻りできない段階だった」というケースもよくあります。だからこそ、HbA1cが高い段階での早期対策が極めて重要なのです。
③ 糖尿病性神経障害・動脈硬化|全身に広がるダメージ
HbA1cの高値は、目や腎臓だけでなく、神経や太い血管にも影響を及ぼします。
- 足先のしびれ
- ピリピリ・ジンジンする痛み
- 感覚が鈍くなる
進行すると、傷に気づきにくくなり、足潰瘍や壊疽(えそ)につながることもあります。
また、高血糖は動脈硬化(血管が硬く・狭くなる状態)を強く促進します。
その結果、心筋梗塞・脳梗塞といった命に関わる病気のリスクが大きく高まります。
HbA1cが高くなる原因

HbA1cが高いという結果が出ると、「何が悪かったのだろう?」と不安になる方も多いと思います。
外来でお話ししていると、「甘いものはそんなに食べていない」「そこまで不摂生している自覚はない」という声もよく聞きます。
実際には、HbA1cが高くなる原因は一つではなく、いくつかの要因が重なって起こることがほとんどです。ここでは、代表的な原因を順に解説します。
① 糖質の摂りすぎ・食事内容の偏り
HbA1cが高くなる最も基本的な原因は、食事による血糖値の上昇が頻繁に起きていることです。
ご飯、パン、麺類などの主食や、お菓子、清涼飲料水に含まれる糖質は、体内でブドウ糖となり血糖値を上げます。
特に注意が必要なのは、
- 菓子パン・スイーツ
- ジュース・加糖コーヒー
- 丼ものや麺類中心の食事
など、「知らないうちに糖質が多くなりやすい食事」です。
また、「量はそれほど多くない」と思っていても、血糖値が急激に上がる食事を繰り返していると、HbA1cは少しずつ上昇していきます。
② 運動不足によるインスリンの効きの低下
HbA1cの上昇には、運動不足も深く関係しています。
運動不足が続くと、筋肉量が減り、血糖を取り込む力が弱くなります。
その結果、インスリン(血糖値を下げるホルモン)が
分泌されていても、うまく働かなくなる状態が起こります。
これをインスリン抵抗性(インスリンが効きにくい状態)と呼びます。インスリン抵抗性が高まると、血糖値が下がりにくくなり、HbA1cが上昇しやすくなります
特に、
- デスクワーク中心
- 歩く機会が少ない
- 運動習慣がほとんどない
といった生活が続いている方は、注意が必要です。
③ 体重増加・内臓脂肪の蓄積
体重の増加、特にお腹まわりに脂肪がつく「内臓脂肪型肥満」は、HbA1cを上げる大きな要因です。
内臓脂肪が増えると、インスリンの働きを邪魔する物質が分泌され、インスリン抵抗性がさらに強くなります。
そのため、
- 高度な肥満でなくても
- 体重が数kg増えただけでも
- ウエストが少し太くなっただけでも
血糖値が上がりやすくなり、HbA1cの上昇につながることがあります。
④ ストレス・睡眠不足の影響
意外に見落とされやすいのが、ストレスや睡眠不足です。
強いストレスを感じると、体はそれに対抗するために、アドレナリン・コルチゾールといった血糖値を上げるホルモンを分泌します。
この状態が一時的であれば問題ありませんが、慢性的なストレスや睡眠不足が続くと、血糖値が高い状態が続きやすくなります。
その結果、HbA1cがじわじわと上昇していくことがあります。
⑤ 遺伝的体質・他の病気や薬の影響
HbA1cの上昇には、生活習慣だけでなく体質的な要因も関係します。
ご家族に糖尿病の方がいる場合、インスリンの分泌量が少ない・インスリンが効きにくいといった体質を受け継いでいることがあり、同じ生活をしていてもHbA1cが高くなりやすい傾向があります。
また、膵臓や肝臓の病気・ステロイド薬など一部の薬剤によって、血糖値が上がりやすくなるケースもあります。
このような場合は、自己判断せず、医師と相談しながら原因を整理することが大切です。
HbA1cを下げるには?今日からできる対策

HbA1cが高いと言われると、「何から始めればいいのか分からない」と戸惑う方も多いと思います。外来でもよくお伝えするのですが、HbA1cの改善は特別なことを一気に頑張る必要はありません。
大切なのは、血糖値が上がりにくい生活を「毎日コツコツ続けること」です。ここでは、今日から無理なく取り組める3つの基本対策を解説します。
① 食事療法:血糖値を上げにくい食べ方を身につける
HbA1cを下げるうえで、最も影響が大きいのが食事です。
ただし、「糖質を完全に抜く」「極端な制限をする」必要はありません。
ポイントは、血糖値が急激に上がらない食べ方を意識することです。
食物繊維から先に食べる「ベジファースト」
食事の最初に、野菜・きのこ・海藻類など食物繊維が豊富な食品を食べる方法を「ベジファースト」と呼びます。
食物繊維には、後から食べる糖質の吸収をゆっくりにし、食後血糖値の急上昇を抑える働きがあります。
理想的な順番は、野菜・海藻・きのこ(副菜)→肉・魚・卵・大豆製品(主菜)→ご飯・パン・麺類(主食)です。これだけでもHbA1c改善に大きな差が出ます。
糖質の「量」と「質」を見直す
糖質は体に必要な栄養素ですが、摂りすぎると血糖値が上がりやすくなります。
特に注意したいのは、
- 甘いお菓子・菓子パン
- 清涼飲料水・加糖コーヒー
- 丼もの・麺類の単品食べ
です。
主食を選ぶ際は、白米よりも玄米・雑穀米・全粒粉パンなど、血糖値が上がりにくい食品を意識してみましょう。
間食・飲み物を見直す
間食や飲み物は、「少しだけ」のつもりでもHbA1cに大きく影響します。
ジュースやスポーツドリンクを日常的に飲んでいる方は、水やお茶に変えるだけでも効果的です。
どうしても間食をしたい場合は、ナッツや無糖ヨーグルトなど、血糖値が上がりにくいものを選びましょう。
② 運動療法:インスリンを効きやすくする
運動は、血糖値を直接下げるだけでなく、インスリンの効きを良くするという重要な役割があります。
「運動が苦手」「時間が取れない」という方でも、できることからで大丈夫です。
有酸素運動(ウォーキングなど)
ウォーキングや軽いジョギング、自転車などの有酸素運動は、血液中のブドウ糖をエネルギーとして消費します。
食後1時間前後に10〜30分程度歩くだけでも、食後高血糖の改善に役立ちます。「まずは1日10分多く歩く」くらいの目標で十分です。
レジスタンス運動(筋トレ)
スクワットやかかと上げなどの軽い筋力トレーニングは、筋肉量を保つのに効果的です。
筋肉は、体の中で最も多く血糖を取り込む場所です。そのため、筋肉量を維持・増加させることで、血糖値が下がりやすい体になります。
週に2〜3回、無理のない範囲で続けましょう。
③ 薬物療法:必要な場合は早めに相談を
食事や運動を見直してもHbA1cが十分に下がらない場合、薬物療法が必要になることがあります。
糖尿病治療の薬には、
- インスリンの分泌を助ける薬
- インスリンの効きを良くする薬
- 糖の吸収や排泄を調整する薬
など、さまざまな種類があります。
薬は「最後の手段」ではなく、合併症を防ぐための大切な選択肢です。
自己判断で我慢したり中断したりせず、医師と相談しながら、自分に合った治療を選びましょう。
薬物療法を行っていても、食事・運動の見直しは重要です。
HbA1cと平均血糖値の換算表

HbA1cは「%」で表示されるため、「この数値って、実際どれくらい血糖値が高いの?」とピンと来ない方も多いと思います。
そこで参考になるのが、HbA1cと平均血糖値の換算です。
HbA1cは過去1〜2か月の平均血糖値を反映しているため、一定の計算式を使うことで、「だいたいの平均血糖値」を推定することができます。
HbA1cから推定される平均血糖値とは
HbA1cと平均血糖値の関係は、次の計算式で表されます。
平均血糖値(mg/dL) ≒ 28.7 × HbA1c(%) − 46.7
少し難しく感じるかもしれませんが、実際には換算表を見て確認すれば十分です。
この換算値を知ることで、普段の血糖状態をより具体的にイメージできる・HbA1c改善の目標が立てやすくなるといったメリットがあります。
HbA1cと平均血糖値の換算表
| HbA1c(%) | 平均血糖値(mg/dL) | 血糖状態の目安 |
|---|---|---|
| 5.0 | 97 | 正常範囲 |
| 5.5 | 111 | ほぼ正常 |
| 6.0 | 126 | 境界型(予備群) |
| 6.5 | 140 | 糖尿病型の目安 |
| 7.0 | 154 | 合併症予防の目標 |
| 8.0 | 183 | 高め |
| 9.0 | 212 | かなり高い |
| 10.0 | 240 | 非常に高い |
| 11.0 | 269 | 危険なレベル |
| 12.0 | 298 | 早急な対応が必要 |
※数値はあくまで推定値であり、個人差があります。
換算表を見るときのポイント
この表で特に注目してほしいのは、HbA1c 7.0% ≒ 平均血糖値 約154mg/dLという点です。
「HbA1cは7%くらいまでに抑えましょう」と医師から説明されることがありますが、これは毎日の血糖値が平均して150mg/dL前後に保たれている状態を意味しています。
逆に言えば、HbA1cが8%、9%と上がっていくと、
- 200mg/dL前後の高血糖状態が慢性的に続いている
- 血管へのダメージが蓄積しやすい
ということになります。
HbA1cは数字だけを見ると小さな差に見えますが、平均血糖値に換算すると、その差は決して小さくありません。
HbA1cと血糖値は「目安」として使う
HbA1cも平均血糖値も、あくまで体の状態を把握するための指標です。
日々の血糖値は、食事内容・運動量・体調やストレスによって大きく変動します。
そのため、1回の数値に一喜一憂しすぎないことも大切です。
HbA1cと平均血糖値の換算を参考にしながら、全体の傾向はどうか・以前より改善しているかといった視点で、長期的に血糖コントロールを見ていきましょう。
HbA1cの測定に関する注意点

HbA1cは、長期間の血糖状態を把握できる非常に便利な指標ですが、「どんな場合でも完全に正確」というわけではありません。
外来でも、「HbA1cは正常なのに血糖値が高いと言われた」「数値が思ったより低く(高く)出た」といった相談を受けることがあります。
ここでは、HbA1cを正しく理解するために、知っておいてほしい注意点を解説します。
食事や運動の影響は受けにくい
HbA1cの大きな特徴のひとつは、検査当日の食事や運動の影響をほとんど受けないという点です。
血糖値は、直前に食事をしたかどうか・検査前に運動をしたかによって大きく変動しますが、
HbA1cは過去1〜2か月の平均的な血糖状態を反映するため、「検査のために食事を抜く」「前日に無理に運動する」といった調整は基本的に不要です。
普段通りの生活をした状態で測定できる、という点はHbA1cの大きなメリットと言えるでしょう。
貧血や特定の病気があると数値がずれることがある
HbA1cは、赤血球の寿命を前提にした検査です。そのため、赤血球の状態が通常と異なる場合、実際の血糖状態とHbA1cの数値が一致しないことがあります。
HbA1cが低く出やすいケース
以下のような状態では、赤血球の寿命が短くなり、HbA1cが実際より低く出ることがあります。
- 溶血性貧血(赤血球が早く壊れる病気)
- 出血後や貧血治療の直後
- 肝硬変などの重い肝疾患
この場合、「HbA1cはそれほど高くないのに、血糖値は高い」という結果になることがあります。
HbA1cが高く出やすいケース
逆に、以下のような場合には、HbA1cが実際より高く出ることがあります。
- 鉄欠乏性貧血(治療前)
- 慢性腎不全
これは、古い赤血球の割合が増えることで、糖化されたヘモグロビンが多く見積もられるためです。
HbA1cの数値だけで判断せず、血糖値や他の検査結果と合わせて評価することが重要になります。
妊娠中の血糖管理ではHbA1cが参考にならない場合がある
妊娠中は、ホルモンバランスの変化によって血糖値が大きく変動します。
特に妊娠糖尿病が疑われる場合には、短期間の血糖変動を把握する必要があるため、過去1〜2か月の平均を示すHbA1cは、血糖管理の指標として適さないケースがあります。
そのため妊娠中は、自己血糖測定(SMBG)・グリコアルブミン(GA)といった、より短期間の血糖状態を反映する指標が用いられることが一般的です。
HbA1cは「万能な数値」ではない
HbA1cは非常に優れた指標ですが、HbA1cだけで体のすべてがわかるわけではありません。
外来では、
- HbA1c
- 空腹時血糖値・食後血糖値
- 体重や腹囲
- 生活習慣の内容
を総合的に見て、血糖コントロールの状態を判断します。
HbA1cはあくまで「長期的な傾向を知るための指標」。その特性と限界を理解した上で、主治医と一緒に数値を読み解いていくことが、安全で確実な血糖管理につながります。
HbA1cの仕組みに関するよくある質問

ここでは、患者さんから特に多い疑問について、仕組みを踏まえながら分かりやすくお答えします。
Q. HbA1cはどうやってできるのですか?
A. HbA1cは、血液中のブドウ糖が、赤血球の中にあるヘモグロビンと結合することで作られます。
この結合を「糖化(とうか)」と呼びます。血糖値が高い状態が続くほど、ブドウ糖がヘモグロビンに結合する量も増え、HbA1cの割合が高くなります。
一度糖化したヘモグロビンは、赤血球の寿命が尽きるまで元に戻りません。この性質があるため、HbA1cは過去の血糖状態を反映する指標となります。
Q. 血糖値とHbA1cの関係は?
A. 血糖値とHbA1cは、同じ「血糖の状態」を見ていますが、見ている時間軸が異なります。
血糖値は、採血したその瞬間の血糖の濃さを示す指標です。
一方、HbA1cは、過去1〜2か月間の平均的な血糖状態を反映しています。
よく例えるなら、
- 血糖値:その日の「体温」
- HbA1c:最近の「平均体温」
のような関係です。
そのため、検査当日の血糖値が正常でも、HbA1cが高いということは十分に起こり得ます。
Q. なぜHbA1cは「過去1〜2か月」を反映するのですか?
A. これは、赤血球の寿命が約120日(約4か月)であることが関係しています。
血液中には、
- 最近作られた新しい赤血球
- 数か月前に作られた古い赤血球
が常に混ざっています。
HbA1cは、それらすべての赤血球に含まれる「糖化されたヘモグロビンの割合」を測定します。
この中でも特に影響が大きいのが、直近1〜2か月間に作られた赤血球です。そのため、HbA1cは直近1〜2か月の血糖状態を強く反映すると考えられています。
Q. HbA1cが高いのに、血糖値がそれほど高くないのはなぜ?
A. これは外来で非常によくある質問です。
考えられる理由は、
- 過去1〜2か月間は血糖値が高い日が多かった
- 最近になって食事や運動を改善した
といったケースです。
HbA1cは「過去の平均」を見ているため、最近の血糖値が改善していても、すぐには下がりません。
逆に言えば、HbA1cが下がってきている場合は、ここ1〜2か月の努力がきちんと結果として表れているという、良いサインでもあります。
Q. HbA1cはどのくらいの頻度で測るのですか?
A. 一般的には、1〜3か月に1回測定されることが多いです。
これは、HbA1cが反映する期間(約1〜2か月)を考えると、治療効果や生活習慣の変化を評価するのに適した間隔だからです。
治療内容を変更した直後や、血糖コントロールが不安定な場合は、より短い間隔で測定されることもあります。
Q. HbA1cだけ見ていれば血糖管理は十分ですか?
A. 答えは「いいえ」です。
HbA1cは非常に重要な指標ですが、低血糖や食後高血糖などの細かな変動までは分かりません。
特に、
- インスリン治療中の方
- 低血糖のリスクがある方
では、日々の血糖値測定とHbA1cを組み合わせて評価することが不可欠です。
HbA1cは「全体像」、血糖値は「日々の動き」。この両方を理解して管理することが、最も安全な血糖コントロールにつながります。
まとめ:HbA1cの仕組みを理解し適切な血糖コントロールを

HbA1cは、過去1〜2か月間の血糖コントロール状態を客観的に示す指標です。
血糖値が「その瞬間」を示すのに対し、HbA1cは日々の変動を平均化した、血糖管理の成績表のような役割を持ちます。
HbA1cが高い場合、自覚症状がなくても合併症リスクが高まっている可能性があります。
一方でHbA1cは、生活習慣の改善によって変化する数値です。
健診で指摘された場合は、体からの早めのサインと受け止め、自己判断せず医師と相談しながら血糖管理を続けていきましょう。
免責事項:本記事は情報提供を目的としたものであり、医学的な診断や治療を代替するものではありません。健康に関する問題については、必ず専門の医療機関にご相談ください。

