「最近、仕事のプレッシャーでイライラしやすい」「人間関係の悩みが続いて、体調まで崩している気がする」──このような状態に心当たりはないでしょうか。
現代社会でストレスを避けて生活することは簡単ではありません。そして実は、そのストレスが血糖値を押し上げ、将来の健康リスクを高めている可能性があります。
健康診断で血糖値の高さを指摘された方や、ストレスが続いて体の不調を感じている方は、その原因が気持ちの問題だけではないかもしれません。ストレスと血糖値には、医学的にもはっきりした関係があることが分かっています。
- ストレスで血糖値が上がる医学的な理由
- 一時的な上昇と注意すべきケースの違い
- ストレスによる高血糖・糖尿病リスクへの対処法
この記事では、ストレスで血糖値が上がる仕組みから、見落とされやすいリスク、そして今日から実践できる対策までを、専門的な内容をかみ砕いて解説します。
ストレスで血糖値が上がるのはなぜ?科学的根拠と3つのメカニズム

「食事には気をつけているのに、なぜか血糖値が高い」と感じる場合、その背景にストレスが関係していることがあります。
人は強いストレスを感じると、体が危険に備えるモードに切り替わります。この反応は本来、生き延びるために必要なものですが、その過程で血糖値が上昇しやすくなります。医学的にも、いくつかのはっきりした仕組みが分かっています。
1. ストレスホルモン(コルチゾール・アドレナリン)の分泌増加
ストレスを感じたときに分泌される代表的なホルモンが、コルチゾールとアドレナリンです。どちらも血糖値を上げる作用がありますが、働き方や影響する時間帯には違いがあります。
まずは、2つのホルモンの違いを整理してみましょう。
| コルチゾール | アドレナリン | |
|---|---|---|
| 主な役割 | 長期的なストレスへの対応 | 瞬間的な危機への対応 |
| 分泌されやすい状況 | 仕事・人間関係など慢性的なストレス | 強い緊張・恐怖・驚き |
| 血糖値への影響 | 血糖値を高めた状態を維持しやすい | 一時的に血糖値を急上昇させる |
| 影響する時間 | 数時間〜長期間 | 数分〜数十分 |
強い緊張やプレッシャーを感じた瞬間にはアドレナリンが働き、血糖値が急上昇します。一方で、仕事や家庭の悩みなどが長く続いている場合は、コルチゾールの影響によって血糖値が下がりにくい状態が続くことになります。
このように、ストレスの「強さ」と「続く時間」によって、血糖値の上がり方や影響の仕方が変わる点が重要です。
2. 交感神経の活性化による血糖上昇
ストレスがかかると、自律神経のうち交感神経が優位になります。交感神経が働くと体は活動モードに入り、インスリンの分泌や働きが抑えられます。
その結果、血糖値を上げる作用が強くなり、下げる力が弱まるため、血糖値が高くなりやすい状態になります。
3. 慢性的なストレスによるインスリン抵抗性の上昇
特に注意が必要なのが、ストレスが慢性的に続いている場合です。コルチゾールが長期間分泌され続けると、インスリンが効きにくくなります。
この状態をインスリン抵抗性と呼びます。インスリンが十分に働かなくなると、血糖値が下がりにくくなり、2型糖尿病の発症や悪化につながります。
- 仕事や家庭の問題が長く続いている
- 常に緊張感が抜けない
- 眠りが浅く疲れが取れない
このような状態が続いている場合、ストレスによる血糖値上昇が固定化している可能性があります。
ストレスによる血糖値の上昇はどのくらい?一時的なものか?

ストレスで血糖値が上がるといっても、「どのくらい上がるのか」「一時的な反応なのか」は気になるところです。ここでは、一般的に知られている目安と注意すべきポイントを整理します。
ストレスで血糖値はどのくらい上がるのか?
血糖値の上昇幅には個人差がありますが、健康な人でも強いストレスがかかると20〜30mg/dL程度上昇することがあります。
一方で、糖尿病がある場合や血糖コントロールが不安定な場合には、100mg/dL以上大きく上昇するケースも報告されています。
| 状態 | 血糖値の上昇目安 |
|---|---|
| 健康な人 | 約20〜30mg/dL |
| 糖尿病がある人 | 100mg/dL以上上昇することも |
ストレスによる血糖値の上昇は一時的な反応か、継続するのか
短時間の緊張や一時的な不安であれば、ストレスが解消されると血糖値も自然に元へ戻ることがほとんどです。
しかし、仕事や家庭の問題など慢性的なストレスが続いている場合は、高血糖状態が長引きやすくなります。
- 忙しさが続き、休む時間が取れていない
- 不安や緊張が抜けず、常に気が張っている
- 睡眠の質が落ち、疲れが取れにくい
このような状態が続くと、ストレスによる血糖値上昇が一過性ではなく、定着しやすくなるため注意が必要です。
ストレスで血糖値が下がるケースもある?その原因とは

一般的にストレスは血糖値を上げる方向に働きますが、まれに血糖値が下がるケースもあります。ただし、これは安心できる状態とは限らず、注意が必要です。
ストレスによる低血糖は、体調や生活状況、治療内容が重なった結果として起こることが多く、背景を正しく理解することが大切です。
ストレスで血糖値が下がる主な原因
ストレスが強くかかると、食事や生活リズムが乱れやすくなります。その結果、次のような状況が重なることで低血糖が起こることがあります。
- 食欲不振や食事量の減少
ストレスで食事がとれず、体に入る糖が不足する。 - 無意識の活動量増加
落ち着かず動き回ることで、糖の消費が増える。 - 薬の影響
インスリンや血糖降下薬を使用している場合、食事量の減少と重なり低血糖を起こしやすい。
ストレス下の低血糖は「生活の乱れ」と「治療内容」が重なって起こりやすいのが特徴です。
低血糖が疑われるときのサイン
ストレスが続いている中で、次のような症状がある場合は低血糖の可能性があります。
- 冷や汗が出る
- 動悸がする
- 手が震える
- 強い空腹感やめまい
これらの症状を感じた場合は、無理をせず、早めに糖分を補給する、医療機関に相談することが重要です。
基本的には、「ストレス=血糖値が上がる」と考えて対策を行い、低血糖が疑われる場合は例外的なケースとして慎重に対応することが大切です。
ストレスと血糖値スパイクの危険な関係

血糖値の高さだけでなく、近年問題視されているのが血糖値スパイクです。これは、食後に血糖値が急激に上昇し、その後急降下する状態を指します。
ストレスがかかっている状態では、この血糖値スパイクが起こりやすくなり、気づかないうちに体へ負担をかけていることがあります。
血糖値スパイクが引き起こすリスク
血糖値スパイクは一時的な変化に見えますが、繰り返されることで血管や神経にダメージを感じさせます。具体的には、次のようなリスクが指摘されています。
- 動脈硬化の進行
血糖値の急変動が血管の内側を傷つけ、動脈硬化を進めやすくします。 - 心筋梗塞・脳梗塞のリスク上昇
血管への負担が蓄積し、将来的な重大疾患につながる可能性があります。 - 眠気・集中力低下
食後に強い眠気やだるさを感じる場合、血糖値スパイクが起きているサインかもしれません。
血糖値スパイクは「自覚症状が少ないまま進行する」点が危険な特徴です。
ストレスが血糖値スパイクを誘発する仕組み
ストレスがかかると、インスリンの働きが弱まり、血糖値が下がりにくい状態になります。そのうえで、次のような行動が重なると、血糖値スパイクが起こりやすくなります。
- 早食いによる急激な糖の吸収
- やけ食いによる糖質・脂質の過剰摂取
- 空腹状態から一気に食べる習慣
これらが重なると、血糖値は一気に上昇し、その後インスリンが遅れて大量に分泌されることで、急降下が起こります。
ストレスがある状態ほど、血糖値の「上下動」が激しくなりやすい点が、血糖値スパイクの怖さといえるでしょう。
ストレス性糖尿病は治る?その定義とリスクを解説

「ストレスが原因で糖尿病になることはあるのか」「ストレス性糖尿病は治るのか」と疑問に感じる方も多いでしょう。
結論から言うと、医学的に「ストレス性糖尿病」という正式な病名は存在しません。しかし、ストレスがきっかけとなり、糖尿病の発症や悪化につながるケースは実際にあります。
ストレス性糖尿病(ストレス誘発性糖尿病)とは
一般に「ストレス性糖尿病」と呼ばれているものは、強いストレスが引き金となり、血糖値が急激に上昇し、その状態が続いて糖尿病と診断されるケースを指します。
多くの場合、もともとの体質や生活習慣にストレスが重なることで発症します。ストレスだけが単独の原因になることはまれです。
- 肥満や運動不足
- 不規則な食生活
- 睡眠不足や慢性的な疲労
これらの状態に、仕事や家庭の強いストレスが加わることで、血糖値のコントロールが崩れやすくなります。
ストレスは「糖尿病の直接原因」ではなく「引き金」になりやすいのが特徴です。
ストレス性糖尿病は治るのか?改善の可能性と考え方
糖尿病は、現在の医療では完全に治すことは難しい病気とされています。ただし、ストレス対策や生活習慣の改善によって、血糖値が安定した状態(寛解)を目指すことは可能です。
特に、発症初期であればあるほど、ストレスの軽減や食事・運動の見直しによって、薬を使わずに血糖値が改善するケースもあります。
- ストレス要因の整理と対処
- 食事量・食べ方の見直し
- 無理のない運動習慣
- 必要に応じた医師の治療
重要なのは、「ストレスを減らせば自然に治る」と考えるのではなく、医療と生活改善を組み合わせて向き合うことです。
睡眠不足も血糖値を上げる?ストレスとの悪循環

睡眠不足は「疲れるだけ」と思われがちですが、実は血糖値にも大きな影響を与えます。特に、ストレスが強い状態で睡眠不足が重なると、血糖コントロールは一気に崩れやすくなります。
この関係は一方向ではなく、ストレスと睡眠不足が互いに影響し合う悪循環として起こる点が特徴です。
睡眠不足が血糖値を上げる理由
睡眠時間が短い、あるいは眠りが浅い状態が続くと、体は回復できず、常に緊張した状態になります。このとき、血糖値に影響するホルモンのバランスが乱れます。
- コルチゾールの分泌増加
睡眠不足はストレスホルモンを増やし、血糖値を上げやすくします。 - インスリンの働き低下
寝不足が続くと、インスリンが効きにくくなります。 - 食欲をコントロールするホルモンの乱れ
甘いものや炭水化物を欲しやすくなります。
ストレス・睡眠不足・高血糖がつながる悪循環
ストレスが強いと眠りが浅くなり、睡眠不足になります。すると血糖値が上がりやすくなり、その結果として体調不良や不安感が増し、さらにストレスが強まります。
- ストレスが強くなる
- 眠れなくなる
- 血糖値が上がる
- 体調が悪くなり、さらにストレスが増す
この流れに気づかないまま放置すると、血糖値の上昇が慢性化しやすくなります。
血糖コントロールのために意識したい睡眠のポイント
血糖値を安定させるためには、完璧な睡眠を目指す必要はありません。まずは、「睡眠を削り続けない」ことが重要です。
- 就寝・起床時間をできるだけ一定にする
- 寝る直前のスマホや仕事を控える
- 短時間でも休息をとる意識を持つ
睡眠を整えることは、ストレス対策であると同時に、血糖コントロールの土台づくりにもつながります。
ストレスによる高血糖への具体的な対策と血糖値の下げ方

ストレスによる高血糖は、「気合いで乗り切る」ものではありません。日々の生活の中で、血糖値が上がりにくい行動を積み重ねることが、結果的に一番の近道になります。ここでは、今日から取り入れやすく、医学的にも理にかなった対策を紹介します。
食生活の見直しで血糖コントロールを安定させる
ストレスがかかっていると、食事が乱れやすくなります。まず意識したいのは、「何を食べるか」より「どう食べるか」です。
- 野菜から食べる
食物繊維を先にとることで、食後血糖値の急上昇を抑えやすくなります。 - ゆっくり噛んで食べる
早食いは血糖値スパイクを起こしやすくします。 - ストレス時の甘いものに注意
甘い物で一時的に落ち着いても、血糖値の乱高下がストレスを増やす原因になります。
食事は「内容」よりも「食べ方」を整えるだけで血糖値が安定しやすくなります。
適度な運動でストレスと血糖値を同時に下げる
運動は、血糖値を下げるだけでなく、ストレス解消にも効果があります。激しい運動は必要ありません。
- ウォーキングなどの軽い有酸素運動
- 1回20〜30分を目安に継続
- 「少し息が弾む」程度の強さ
体を動かすことで、インスリンの効きが良くなり、ストレスによる血糖値上昇を打ち消しやすくなります。
ストレスそのものへの対処も血糖管理につながる
血糖値を安定させるには、ストレス源に目を向けることも欠かせません。完全にストレスをなくす必要はなく、「溜め込まない工夫」が重要です。
- 短時間でも気分転換の時間をつくる
- 悩みを一人で抱え込まない
- 完璧を求めすぎない
ストレスを自覚し、適切に発散することは、結果として血糖コントロールを助けます。
改善しない場合は医療機関への相談を
生活習慣を見直しても血糖値が高い状態が続く場合は、我慢せず医療機関に相談することが大切です。
ストレスの影響が強い場合、内科だけでなく心療内科や精神科と連携することで、血糖値が安定するケースもあります。
ストレスが限界に達した時に出る危険なサイン

ストレスは少しずつ蓄積するため、自分では「まだ大丈夫」と感じてしまいがちです。しかし、体や心は限界に近づくと、分かりやすいサインを出し始めます。これらのサインを見逃さず、早めに対処することが、血糖値の悪化や体調不良を防ぐうえで重要です。
体に現れやすいサイン
ストレスが強くなると、自律神経のバランスが乱れ、次のような身体症状が出やすくなります。
- 強い喉の渇きや頻尿が続く
- 動悸や息苦しさを感じる
- 胃痛や下痢、食欲不振が続く
- 疲れているのに眠れない
これらの症状が続いている場合、ストレスと高血糖が同時に進んでいる可能性があります。
心に現れやすいサイン
体だけでなく、心の変化として現れるサインにも注意が必要です。
- 些細なことでイライラする
- 不安感が強く、気持ちが落ち着かない
- 集中力が続かず、仕事や家事に支障が出る
- 何をしても楽しいと感じられない
「気分の問題」と片付けてしまいがちですが、これらも体からの重要なサインです。心と体の不調が同時に出ているときは、無理を続けないことが大切です。
こんな場合は早めに専門家へ相談を
次のような状態が当てはまる場合は、早めに医療機関への相談を検討しましょう。
- 不調が2週間以上続いている
- 血糖値が以前より明らかに上がっている
- 生活に支障が出るほどつらい
早めに相談することで、ストレスへの対処と血糖コントロールの両面からサポートを受けることができます。
ストレスと血糖値の関係に関するよくある質問(FAQ)

Q1. ストレスを感じると、すぐに血糖値は上がりますか?
はい、強いストレスを感じた場合、数分〜数十分以内に血糖値が上昇することがあります。これは、アドレナリンなどのストレスホルモンが分泌されるためです。
特に緊張や不安が強い場面では、食事をしていなくても血糖値が上がることがあります。
Q2. 糖尿病ではない人でもストレスの影響はありますか?
糖尿病がない人でも、ストレスによって血糖値は一時的に上がります。
ただし、健康な場合はインスリンの働きによって、ストレスが解消されれば自然に元へ戻ることがほとんどです。一方で、ストレスが慢性的に続くと、血糖値が高めで推移しやすくなるため注意が必要です。
Q3. ストレスだけで糖尿病になることはありますか?
ストレスだけが原因で糖尿病になることは多くありません。
ただし、もともとの体質や生活習慣にストレスが重なることで、発症の引き金になることはあります。そのため、ストレス対策は糖尿病予防の一部として考えることが大切です。
Q4. ストレス対策をすると血糖値は下がりますか?
ストレスを完全になくすことは難しいですが、対処の仕方を変えることで血糖値が安定しやすくなります。
睡眠や運動、気分転換を意識するだけでも、血糖値の上下が穏やかになるケースは少なくありません。
生活習慣の改善と組み合わせることで、より効果が期待できます。
Q5. 血糖値が高いとき、心療内科や精神科に相談してもよいのでしょうか?
はい、問題ありません。ストレスの影響が強い場合、内科だけでなく心療内科や精神科と連携することで、結果的に血糖値が安定することもあります。
「体の問題」「心の問題」と分けて考えすぎず、つらさを感じた時点で相談することが大切です。
まとめ:ストレスと血糖値を正しく管理して糖尿病リスクを減らそう
ストレスは気分の問題だけでなく、血糖値に直接影響する身体的な要因です。強いストレスや慢性的な負担が続くと、血糖値が上がりやすくなり、糖尿病やその予備群につながる可能性があります。
一方で、ストレスと血糖値の関係を正しく理解し、日々の生活を少しずつ整えることで、血糖コントロールは十分に改善が期待できることも分かっています。
- ストレスは血糖値を上げる明確な要因
ホルモンや自律神経を通じて、血糖値に影響を与える。 - 睡眠・食事・運動は血糖管理の土台
生活習慣を整えることで、ストレスの影響を受けにくくなる。 - 無理を続けないことが最大の予防策
限界サインに気づき、早めに対処することが重要。
「まだ大丈夫」と我慢を重ねるよりも、体や心の変化に気づいた時点で行動することが、将来の健康を守る近道になります。血糖値が気になる方やストレスが強いと感じている方は、一人で抱え込まず、医療機関や専門家に相談することも選択肢の一つです。
今日からできる小さな見直しが、血糖値とストレスの両方を安定させる第一歩になります。
本記事は、ストレスと血糖値に関する一般的な情報を提供するものであり、医学的な診断や治療に代わるものではありません。血糖値に関するお悩みや健康上の問題がある場合は、必ず医師または専門の医療機関にご相談ください。

