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医療機関名
●●クリニック
診療科目
内科・糖尿病内科・内分泌内科
オンライン診療時間
9:00〜22:00(年中無休)
医療機関届出番号
第●●●●号
所在地
東京都●●区●●1-2-3 ●●ビル●F

インスリンの役割とは?血糖値を下げる仕組みと全身への影響を解説

インスリンは、単に血糖値を下げるだけのホルモンではありません。私たちが毎日食事をし、体を動かし、健康を保ちながら生活していくうえで、欠かすことのできない重要な役割を担っています。

「血糖値が高いと言われたけれど、インスリンって何をしているの?」「糖尿病とどんな関係があるの?」と疑問に思う方も多いでしょう。

この記事では、インスリンの基本的な働きから、作用が乱れる原因、そして日常生活で意識すべきポイントまでを、専門的な内容をかみ砕きながら、医師の立場でわかりやすく解説していきます。

目次

インスリンとは?膵臓から分泌され血糖値を調節するホルモン

インスリンとは、体の中にある「膵臓(すいぞう)」という臓器の中の、β(ベータ)細胞から分泌されるホルモンです。

ホルモンとは、体の働きを調整するために血液を通して全身に指令を出す“伝達物質”のようなものと考えるとイメージしやすいでしょう。

インスリンの最も重要な役割は、食事によって上昇した血液中のブドウ糖(血糖)を適切な範囲に保つことです。

この働きがあるおかげで、私たちは食事から得たエネルギーを無駄なく使い、体の状態を安定して保つことができます。

インスリンが分泌される仕組み

インスリンの分泌は、私たちが意識しなくても自動的に行われています。

  1. 食事をとる:炭水化物(糖質)が消化・吸収され、ブドウ糖として血液中に入ります。
  2. 血糖値が上昇する:血液中のブドウ糖が増えます。
  3. 膵臓が感知する:β細胞が血糖値の上昇を感知します。
  4. インスリンを分泌する:必要な量のインスリンが血液中に放出されます。
  5. 血糖値が下がる:インスリンが全身の細胞に作用し、血糖値が正常範囲へ戻ります。

    この一連の流れによって、食事のたびに血糖値は自動調整されています。その中心にあるのがインスリンです。

    血糖値を下げる唯一のホルモンとしての重要性

    体内には、血糖値を上げるホルモン(グルカゴン、アドレナリン、コルチゾールなど)は複数存在します。これらは、空腹時やストレス時などにエネルギーを供給するために重要な役割を果たします。

    しかし、血糖値を下げることができるホルモンは、インスリンただ一つです。

    このため、インスリンの働きが弱くなると、血糖値を下げる「代役」が存在せず、高血糖状態が続いてしまいます。

    インスリンの3つの主要な役割と働き

    インスリンの働きは「血糖値を下げる」だけではありません。大きく分けて、次の3つの役割があります。

    役割①:血糖値を下げる(血糖値コントロール)

    まず最も基本となるのが、血糖値を下げる働きです。これは、インスリンの役割の中でも土台となる機能と言えます。

    血液中のブドウ糖を細胞(筋肉・脂肪組織)に取り込む促進作用

    食事をすると、血液中にはブドウ糖が増えます。しかし、ブドウ糖はそのままでは細胞の中に入ることができません。

    ここでインスリンが登場します。インスリンは、細胞の表面にある「インスリン受容体」という受け皿に結合し、ブドウ糖の通り道を開く役割を果たします。

    この仕組みはよく「鍵と鍵穴」に例えられます。インスリンという鍵が合わなければ、細胞のドアは開かず、ブドウ糖は血液中にあふれたままになってしまいます。

    特に筋肉脂肪組織は、インスリンの影響を強く受ける場所であり、ここにブドウ糖が取り込まれることで、血糖値は自然と下がっていきます。

    肝臓でブドウ糖からグリコーゲンを作る作用(糖新生の抑制)

    肝臓は、血糖値を調整するうえで非常に重要な臓器です。インスリンは肝臓にも作用し、血糖値の安定化に貢献しています。

    インスリンは、血液中のブドウ糖を肝臓に取り込ませ、「グリコーゲン」という形で貯蔵するよう指示を出します。

    グリコーゲンとは、いわばすぐに使える糖の貯蔵形態です。空腹時などに血糖値が下がりそうになると、肝臓から放出され、体を支えます。

    またインスリンには、肝臓で新たにブドウ糖を作り出す
    「糖新生(とうしんせい)」という働きを抑える作用もあります。これは、「もう十分に糖があるから、これ以上作らなくていいですよ」というブレーキの役割です。

    役割②:エネルギーを蓄える(グリコーゲン・中性脂肪の合成)

    インスリンは、エネルギーを使うだけでなく、将来に備えて蓄える役割も担っています。この働きは、生きていくうえで欠かせない仕組みです。

    余ったブドウ糖をグリコーゲンとして肝臓・筋肉に貯蔵

    エネルギーとしてすぐに使われなかったブドウ糖は、インスリンの作用によってグリコーゲンに変換され、肝臓や筋肉に貯蔵されます。

    肝臓のグリコーゲンは、全身の血糖値を保つために使われ、筋肉のグリコーゲンは、運動時のエネルギー源として利用されます。

    このように、グリコーゲンは「必要なときにすぐ取り出せるエネルギーの備え」として重要な役割を果たしています。

    脂肪組織で中性脂肪の合成を促進し蓄積する

    グリコーゲンとして貯蔵できる量には限界があります。それでも余ったブドウ糖がある場合、インスリンは別の形でエネルギーを保存しようとします。

    インスリンは、余剰なブドウ糖を中性脂肪に変換し、脂肪細胞に蓄える働きを持っています。

    このため、「インスリン=太るホルモン」と言われることがありますが、本来は飢餓に備えるための生命維持機構です。問題となるのは、必要以上にインスリンが分泌され続ける生活習慣です。

    役割③:身体を作る(タンパク質の合成促進と分解抑制)

    インスリンは、血糖や脂肪だけでなく、体そのものを作る材料の代謝にも関与しています。

    筋肉などでのタンパク質合成を促進する

    インスリンには、アミノ酸を細胞内に取り込み、タンパク質の合成を促進する作用があります。

    タンパク質は、筋肉・内臓・皮膚・髪・爪など、体を構成する基本的な材料です。インスリンは、それらを「作る方向」に体を導きます。

    同時に、インスリンは筋肉内でのタンパク質分解を抑える働きも持っています。つまり、「作るのを助け、壊れるのを防ぐ」という二重の役割を担っているのです。

    この作用があるため、インスリンは筋肉量の維持や回復にも深く関係しており、加齢による筋力低下とも無関係ではありません。

    インスリンの作用が不足するとどうなるのか?

    ここまで、インスリンが体の中でどれほど重要な役割を担っているかを説明してきました。では、そのインスリンの働きが不足したり、うまく効かなくなったりすると、体では何が起こるのでしょうか。

    「血糖値が高いと言われただけで、特に症状はないから大丈夫ですよね」と思われる方も多いでしょう。しかし、インスリンの作用不足は、自覚症状が乏しいまま静かに進行する点が大きな問題です。

    高血糖状態が続き、全身の血管を傷つける

    インスリンの働きが低下すると、血液中のブドウ糖を細胞が十分に取り込めなくなります。その結果、血糖値が高い状態、いわゆる高血糖が慢性的に続くことになります。

    高血糖の状態が続くと、血液は「糖分を多く含んだ状態」となり、血管の内側をじわじわと傷つけていきます。これは一時的な変化ではなく、年単位で少しずつ蓄積していくダメージです。

    特に影響を受けやすいのが、目・腎臓・神経などに存在する細い血管(毛細血管)です。一方で、心臓や脳につながる太い血管も例外ではなく、動脈硬化(血管が硬く狭くなる状態)を進行させる大きな要因となります。

    血管は、全身に酸素や栄養を運ぶ「ライフライン」です。その血管が傷つくことで、体のあらゆる臓器に悪影響が及んでいきます。

    糖尿病の発症・悪化につながる

    インスリンの作用不足によって慢性的な高血糖状態が続く病気が、糖尿病です。糖尿病は、発症の仕組みによって主に1型糖尿病2型糖尿病に分けられます。

    1型糖尿病とインスリン絶対的欠乏

    1型糖尿病は、自己免疫の異常などにより、膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンをほとんど作れなくなる病気
    です。

    このタイプでは、体内のインスリンが絶対的に不足しているため、インスリン注射によって外部から補充しなければ生命を維持することができません。

    主に小児や若年層に多いとされていますが、実際には成人になってから発症するケースもあり、年齢に関係なく注意が必要です。

    2型糖尿病とインスリン分泌不全・抵抗性

    日本の糖尿病患者さんの9割以上を占めるのが2型糖尿病です。このタイプは、遺伝的要因に加えて、生活習慣が大きく関与します。

    食べ過ぎ、運動不足、肥満、加齢、ストレスなどが重なることで、次の2つの状態が起こります。

    • インスリン分泌不全
      膵臓が疲れてしまい、インスリンの分泌量が減る状態
    • インスリン抵抗性
      インスリンは出ているのに、細胞が反応しにくくなる状態

      初期の2型糖尿病では、ほとんど症状がありません。そのため、「気づいたときにはかなり進行していた」というケースも少なくないのが現実です。

      糖尿病三大合併症のリスク増大

      高血糖による血管障害が長期間続くと、特に毛細血管が集中している部位に深刻な影響が現れます。これが、いわゆる糖尿病三大合併症です。

      合併症の種類 影響を受ける部位 進行した場合のリスク
      糖尿病網膜症 目の網膜 視力低下、最悪の場合は失明
      糖尿病腎症 腎臓 腎機能低下、進行すると人工透析が必要になる
      糖尿病神経障害 手足の末梢神経 しびれ・痛み・感覚低下、足の壊疽(えそ)による切断

      これらの合併症は、一度進行すると元の状態に戻すことが非常に難しいという共通点があります。

      だからこそ、症状が出る前の段階から、インスリンの働きを守り、血糖値を良好に保つことが極めて重要なのです。

      インスリンが正常に働かない・効かない2大原因

      血糖値が高い患者さんの中には「インスリンが出ていないのですか?」と思う方もいます。しかし実際には、インスリンが“足りない”ケースと、“効きにくくなっている”ケースの大きく2つに分けて考える必要があります。

      この2つは別々の問題に見えますが、実際には互いに影響し合いながら、血糖コントロールを悪化させていくことが多いのが特徴です。

      原因①:インスリン分泌不全(インスリンの量が足りない)

      インスリン分泌不全とは、その名の通り、膵臓から分泌されるインスリンの量が不足している状態を指します。

      健康な状態では、血糖値の上昇に応じて膵臓が適切な量のインスリンを分泌します。しかし、ある条件が重なると、この仕組みがうまく働かなくなってしまいます。

      膵臓β細胞の疲弊・破壊

      糖質の多い食事や過食が長期間続くと、膵臓のβ細胞は血糖値を下げるために、常に大量のインスリンを分泌し続けなければなりません。


      このような状態が続くと、β細胞は次第に疲れ切ってしまい、インスリンを作る力そのものが低下していきます。

      これが「インスリン分泌不全」です。一度低下したβ細胞の機能は、完全に元へ戻すことが難しいとされており、これが2型糖尿病が進行性の病気といわれる理由の一つです。

      また、日本人は欧米人と比べて、もともとインスリン分泌能力が低めな体質を持つ方が多いことも知られています。そのため、強い肥満がなくても血糖値が上がりやすい傾向があります。

      原因②:インスリン抵抗性(インスリンの効き目が悪い)

      もう一つの大きな原因が「インスリン抵抗性」です。これは、インスリンは分泌されているのに、体の細胞がうまく反応しない状態を指します。

      よく例えられるのが、「インスリンという鍵はあるが、鍵穴が錆びついて開きにくくなっている状態」です。

      肥満・運動不足・食生活の乱れが主な要因

      インスリン抵抗性の最大の原因は、生活習慣の乱れです。特に次の要素が大きく関与します。

      • 肥満(特に内臓脂肪)
        内臓脂肪が増えると、インスリンの働きを邪魔する物質が分泌され、細胞がインスリンに反応しにくくなります。
      • 運動不足
        筋肉はブドウ糖を取り込む最大の臓器です。動かさない状態が続くと、インスリンの効きが低下します。
      • 食生活の乱れ
        高脂肪食や糖質の過剰摂取は、インスリン抵抗性を悪化させる大きな要因です。


        インスリン抵抗性が高まると、膵臓はそれを補おうとして、さらに多くのインスリンを分泌しようとします。

        その結果、膵臓が疲弊し、インスリン分泌不全へと進行する――この悪循環が、2型糖尿病の本質的な問題と言えます。

        インスリンの分泌と作用を正常に保つ方法

        インスリンは、生まれつきの体質だけで決まるものではありません。「年齢のせいだから仕方ない」「遺伝だからどうにもならない」と思い込んでいる方が多いのですが、これは大きな誤解です。

        インスリンの分泌量や効きやすさは、日々の生活習慣によって大きく左右されます。つまり、今からでも意識を変えることで、インスリンの働きを守ることは十分に可能なのです。

        ここでは、診察の場でも必ずお伝えしている「食事」「運動」「治療」という3つの視点から、インスリンを正常に保つための具体的な方法を解説します。

        食事療法:血糖値の急上昇を防ぎ、膵臓を守る

        食事は、インスリンの分泌に最も直接的な影響を与える要素です。特に重要なのは、血糖値を急激に上げない食べ方を意識することです。

        血糖値が急上昇すると、その分インスリンも大量に分泌され、膵臓に大きな負担がかかります。これが長年続くと、インスリン分泌能力の低下につながります。

        食物繊維を先に摂る(ベジタブルファースト)

        まずおすすめするのが、「野菜から先に食べる」というシンプルな工夫です。

        食物繊維(野菜・海藻・きのこなど)は、糖の吸収スピードを緩やかにする働きがあります。

        そのため、最初に野菜を食べておくことで、後から摂るご飯やパンによる血糖値の急上昇を防ぐことができます。

        「特別な食事制限は続かない」という方でも、この方法なら無理なく続けやすいのが利点です。

        低GI食品を意識して選ぶ

        GI(グリセミック・インデックス)とは、食後に血糖値がどれくらい上がりやすいかを示す指標です。

        高GI食品(控えめに) 低GI食品(おすすめ)
        主食 白米、食パン、うどん 玄米、雑穀米、全粒粉パン、そば
        いも類 じゃがいも、フライドポテト さつまいも、里いも
        甘いもの 菓子パン、ケーキ、清涼飲料水 果物(適量)、ナッツ類、ヨーグルト(無糖)

        白米や食パンなどの高GI食品は血糖値を急激に上げやすく、玄米や全粒粉パン、そばなどの低GI食品は上昇が緩やかです。

        すべてを我慢する必要はありませんが、「主食を少し置き換える」だけでも、インスリンへの負担は大きく減ります。

        糖質の「量」と「形」に注意する

        同じ糖質でも、液体で摂る糖(ジュース・清涼飲料水・加糖コーヒーなど)は、特に注意が必要です。

        液体の糖は消化をほとんど必要とせず、一気に吸収されるため、血糖値を急上昇させやすいという特徴があります。

        「食事量はそれほど多くないのに血糖値が高い」という方の場合、飲み物に原因が隠れていることも少なくありません。

        運動療法:インスリンを「効きやすくする」最も確実な方法

        運動は、インスリンの分泌量そのものを増やすというより、インスリンの効きを良くする(=インスリン感受性を高める)点で非常に重要です。

        インスリン感受性とは、「同じ量のインスリンで、どれだけ血糖値を下げられるか」という体の反応性のことです。

        有酸素運動でインスリン抵抗性を改善する

        ウォーキングや自転車、水泳などの有酸素運動は、筋肉がインスリンを使わずにブドウ糖を取り込む働きを高めます

        その結果、血糖値が下がりやすくなり、インスリンの効きも改善します。まずは1日20〜30分のウォーキングから始めましょう。

        筋トレで「糖をためられる体」を作る

        筋肉は、ブドウ糖を蓄える大きなタンクのような存在です。筋肉量が増えるほど、血糖値が上がりにくい体になります。

        スクワットなどの簡単な筋トレを週に2〜3回行うだけでも、長期的な血糖コントロールに大きな差が出ます。

        薬物療法:必要なときにインスリンを補う

        生活習慣の改善だけで血糖値が十分に下がらない場合や、インスリンの分泌能力が大きく低下している場合には、薬物療法が必要になります。

        インスリン注射による治療

        インスリン注射は、体内で不足しているインスリンを外から補う治療です。

        「注射=重症」というイメージを持たれがちですが、実際には膵臓を休ませ、合併症を防ぐために早期から使うケースもあります。

        正しく使用すれば、日常生活に大きな制限がかかることはありません。

        飲み薬(経口血糖降下薬)の役割

        2型糖尿病では、インスリンの分泌を助ける薬や、インスリンの効きを良くする薬が使われます。

        薬は「生活習慣の代わり」ではなく、「生活改善を支える補助」という位置づけです。

        自己判断で中断せず、必ず主治医と相談しながら調整していくことが大切です。

        インスリンの役割に関するよくある質問

        ここでは、特に質問の多い内容について、できるだけ噛み砕いてお答えします。

        Q1. インスリンの役割を一言で言うと何ですか?

        A1. インスリンとは、「血液中の糖を、体の中で正しく使うための調整役」です。

        食事をすると血糖値は自然に上がりますが、インスリンが分泌されることで、その糖が筋肉や肝臓、脂肪細胞に取り込まれ、エネルギーとして利用されたり、必要に応じて蓄えられたりします。

        つまりインスリンは、血糖値を下げるだけでなく、「エネルギーの流れを整える司令塔」のような存在なのです。

        Q2. インスリンがうまく働かないと、体に何が起こりますか?

        A2. インスリンが十分に働かないと、血液中のブドウ糖が細胞に取り込まれず、高血糖の状態が続くようになります。

        高血糖が続くと、血管の内側が少しずつ傷つき、動脈硬化が進行します。その結果、心筋梗塞や脳梗塞、腎障害、視力低下といった重大な病気につながるリスクが高まります。

        「症状がないから大丈夫」と思われる方も多いですが、高血糖は静かに進行するのが特徴であり、気づいた時には合併症が進んでいるケースも少なくありません。

        Q3. インスリンはなぜ血糖値を下げることができるのですか?

        A3. インスリンは、よく「鍵」にたとえられます。

        細胞の表面にある「インスリン受容体(=鍵穴)」にインスリンが結合すると、ブドウ糖が細胞の中に入れるようになります。

        この仕組みによって、血液中にあふれていたブドウ糖が細胞内へ移動し、結果として血糖値が下がります。

        また、インスリンは肝臓に働きかけ、ブドウ糖を「グリコーゲン(貯蔵用の糖)」として蓄える作用もあります。これも血糖値を下げる重要な働きの一つです。

        Q4. インスリン注射はなぜ必要になるのですか?

        A4. インスリン注射が必要になるのは、体内で作られるインスリンの量が足りない、あるいはほとんど分泌されなくなった場合です。

        特に1型糖尿病では、インスリンを作る膵臓のβ細胞が破壊されてしまうため、外から補うことが不可欠になります。

        2型糖尿病でも、長年の負担によって膵臓が疲弊し、内服薬だけでは十分な血糖コントロールができなくなると、インスリン治療が必要になることがあります。

        「注射=重症」という印象を持たれがちですが、合併症を防ぐための前向きな治療選択であることも多いのです。

        Q5. インスリン治療の副作用はありますか?

        A5. 最も注意すべき副作用は、低血糖(血糖値が下がりすぎる状態)です。

        低血糖になると、冷や汗、動悸、手の震え、強い空腹感、めまいなどの症状が現れます。

        ただし、医師の指示どおりに使用し、ブドウ糖や飴を携帯するなどの対策を取っていれば、過度に恐れる必要はありません。

        自己判断で量を変えたり中断したりすることが、最も危険です。

        Q6. インスリンは「太るホルモン」なのですか?

        A6. インスリンが「太るホルモン」と言われることがありますが、正確には少し誤解があります。

        インスリンには、余った糖を中性脂肪として蓄える働きがあるため、摂取エネルギーが多い状態では体重が増えやすくなります。

        しかし、これは本来、飢餓に備えるための生理的に重要な仕組みです。

        インスリン治療によって体重が増える場合もありますが、それは「糖が無駄なく使われるようになった結果」であり、治療が適切に行われているサインでもあります。

        食事療法と運動療法を組み合わせることで、体重増加は十分にコントロール可能です。

        まとめ:インスリンの役割を正しく理解し健康維持に役立てよう

        ここまで、インスリンの基本的な仕組みから、その多面的な役割、そして働きが低下した場合に起こる問題について解説してきました。

        インスリンというと、「血糖値を下げるホルモン」「糖尿病の治療に使う薬」というイメージを持たれがちですが、実際にはそれだけではありません。

        インスリンは、私たちの体がエネルギーを正しく使い、蓄え、そして体そのものを作るために欠かせない存在です。

        • 食事で摂った糖を、筋肉や臓器のエネルギーとして利用させる
        • 余ったエネルギーを、いざという時のために貯蔵する
        • 筋肉や組織の材料となるタンパク質の合成を助ける

          このように、インスリンは血糖値の調節だけでなく、全身の代謝(体の中で起こる化学反応)を支える司令塔のような役割を担っています。

          一方で、インスリンの働きは非常にデリケートです。食べ過ぎ、運動不足、肥満、睡眠不足、慢性的なストレスといった生活習慣の乱れが続くと、インスリンは次第に効きにくくなり、あるいは分泌そのものが低下していきます。

          インスリンの不調は、静かに、しかし確実に進行するのが特徴です。自覚症状がほとんどないまま高血糖が続き、気づいた時には糖尿病や合併症が進んでいるケースも決して珍しくありません。

          だからこそ大切なのは、「病気になってから対処する」のではなく、インスリンの役割を正しく理解し、日常生活の中で守っていく意識を持つことです。

          具体的には、

          • 血糖値を急激に上げない食事を心がける
          • 無理のない範囲で体を動かす習慣を持つ
          • 健康診断の数値を「放置しない」

            こうした積み重ねが、インスリンへの負担を減らし、将来の糖尿病や合併症のリスクを下げることにつながります。

            健康診断で血糖値やHbA1cを指摘された方はもちろん、現時点で異常がない方にとっても、インスリンの働きを意識した生活は、将来の健康への大きな投資になります。

            「今はまだ大丈夫」と思えるうちから、少しずつ生活を整えていくことが、結果的に最も無理のない予防策です。

            この記事が、ご自身の体と向き合うきっかけとなり、インスリンを大切にする生活を始める一助になれば幸いです。


            免責事項:本記事は健康に関する情報提供を目的としたものであり、医師の診断や治療に代わるものではありません。健康上の問題や懸念がある場合は、必ず専門の医療機関にご相談ください。

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